【障害者の雇用問題】難しさの原因とアプローチについて考える

インクルーシブ

こんにちは、かなこ(@MinmachiBuho)です。

今回は、障害と雇用について解説してきます。

 

昨年から障害者と雇用についての問題が、改めて騒動になっていますね。

中央省庁、障害者雇用の水増し解消 採用の大半は非常勤:朝日新聞デジタル
 2018年に発覚した中央省庁での障害者雇用数の水増し問題にからみ、厚生労働省は21日、国の35行政機関すべてが19年12月末時点で公的機関の法定雇用率(2・5%)を満たしたと発表した。法定雇用率を満…

一方で、令和の時代ならではのこんな話題も見られるようになってきました。

ここでは改めて、なぜ障害者は就労から疎外されてきたのか?そしてこれからどうなっていくのか?について、解説していきたいと思います。

なかむら
かなこ

実は経済のシステムと大きな関係があるよ

”社会的弱者”が競争経済から追い出される理由

私の勉強する障害学は、学習や雇用、社会生活から障害者を排除する社会システムを改善しようという目的のもとに研究・活動を続けています。

その中で労働は単に”働くこと”だけを意味するのではなく、加えて労働力の売買を意味すると定義づけられています。障害者はなぜこの労働力の中から排除されてしまうのでしょうか?その理由は資本主義のシステムにあります。

そもそも、資本主義の経済システムは一定の失業率を保つことによって成り立っていると考えられています。失業率が下がり、完全雇用に近づいていくことによってインフラが生じるためです。また、無職かつ求職中の人材(供給)が多くいることによって、雇用(需要)に対する競争率が上がり、給与を下げる効果を発揮するともいわれています。このように安い人件費で商売を行えることは、資本家にとって有利に働くことになります。

自然失業率仮説とは - コトバンク
世界大百科事典 第2版 - 自然失業率仮説の用語解説 - さらに70年代において高い失業率と高いインフレ率の共存傾向がきわめて明らかになり,スタグフレーションという術語が経済学用語として定着した。こうした状況下でマクロ経済学においては自然失業率仮説が主流となった。すなわち上記のフィリ...
NAIRU - Wikipedia

このように、高齢者や女性、障害者などの社会的マイノリティーグループが雇用から遠ざけられてきました。彼らは特に人材不足になったときのための一時的な余剰人員として維持されていたんです。

「women world war job」の画像検索結果

BBCより)
例えばこの現象は、世界大戦中において国内外で出兵した男性に変わって様々な労働を女性が請け負ったことにも見受けられます。

働く女性のあゆみ 第3期 戦時の女性労働<1930 年 - 1945 年>

経済学者のマルクスはこの最も雇用から遠いグループとして、障害者を挙げています。彼らのように労働市場から疎外されている人材が一定数確保されていることによって、この資本主義経済はなりたっているのです。

なかむら
かなこ

そのため障害学では、「就労の権利などを保障するだけでは非雇用状態からは抜け出せないシステムになっている」と批判しているよ

障害×雇用の3つのフェーズ

以前資本主義と障害の捉え方について以下の記事で説明しました。

【障害学入門】”障害”は資本主義によって出来ている?障害の捉え方と社会の変化
こんにちは、かなこ(@MinmachiBuho)です。 いよいよリーズ大学での障害学コースが本格的に始まってきました! 知識の整理+深化のためにどんどんアウトプットをしていきます。今回は障害に対する捉え方と、近代化の影響...

ここでは、労働の変遷を3つのフェーズで説明していきます。

労働フェーズ①:農業時代

上の記事で説明したように、フェーズ①の労働は産業革命以前の農業時代です。労働は家族やコミュニティ内で行われており、各人に特性に合わせて柔軟なものだったと考えられています。

この時代には、障害者は見世物として扱われることはありましたが、その差別は雇用そのものとは関係がありませんでした。

 

労働フェーズ②:産業革命時代

以降、産業革命がおこることで労働が都市集中型・画一型となりました。移動手段の発達により人々は地方から都市に移動するようになり、コミュニティの在り方も変化していったのがこの時期です。

冨は持つものと持たざるものに二分され、ある一定の条件を満たすものだけが労働者として採用されました。そして、労働能力を持たなかった人たちを障害者としてラベリングし、そして社会の主流から隔離するようになっていったんです。

 

労働フェーズ③:テクノロジー時代

「disability technology」の画像検索結果
(BBCより)

ポスト産業時代を迎え、我々が生きている現代社会はテクノロジーを利用し、影響を受ける時代となりました。テクノロジー利用の普及によって、一定の障害者は雇用の機会を得られるようになるとも考えられています。

雇用問題における”障害の社会モデル”の使い方

障害の社会モデルについては以前こちらの記事でご紹介しました。

障害とは何か?障害の社会モデルについてわかりやすく解説①
こんにちは、かなこ(@MinmachiBuho)です。 みなさんは障害とはなんだと思いますか?Googleで「障害」と検索すると、発達障害・知的障害などといった具体的な症状を指す障害の名称を見つけることが出来ます。 ...

簡単に説明すると「障害とは個人の心身機能に由来するものではなく、社会や物理的なバリアーによって生じるもの」という考え方です。

このモデルを雇用問題において考えると

  • 障害者の就労促進に最も有効なのは医療的ケアではない
  • 個人の能力や努力の欠如ではなく、労働スペースを含めた社会環境が、障害者が労働出来ないことの原因
  • 障害者間で有職・無職の差が出るのは、その他さまざまな要因(教育や交通手段、職場の物理的環境などのアクセシビリティ)が影響している

ということになります。これらを包括的にカバーしていく上で、社会政策の担う役割は重大ですが、あくまで部分的なものです。

それは”隔離”か”配慮”か?

現在、国内において色々な施策が行われています。労働者(障害者)側への就労トレーニングや、雇用者側への助成金や雇用割合に対する法整備などです。

その中で、大企業などが特例子会社を整備し、そこで障害者雇用を積極的に行うという事例も出てきましたね。

特例子会社ってどんな会社?職種や給料、雇用形態、働くメリットなどを解説します | LITALICO仕事ナビ
特例子会社という名称は聞いたことがあるものの、実際はどんな会社なのかよく知らない方も多いのではないでしょうか。特例子会社は、障害のある方の雇用の促進、そして安定を図るために設立された会社のことです。この記事では、特例子会社にどんな職種、雇用形態があるのか、給料や職場で行われている配慮事例などについてお伝えします。

このような特例子会社では、一般的な業務から対象となるタスクを分離して、そこに障害者が配属されるというシステムが採用されています。清掃サービスなどを行うところも多いですね。

一般職と異なり、業務が限定されていることで繰り返し丁寧に業務を覚え、遂行していくことが出来るという点では、学習障害がある労働者にとっては非常に良い環境とも言えます。一方で、このようなアプローチは障害者と非障害者の間に横たわる差別や無理解を解消し、インクルーシブな社会を実現するという障害学が提唱するゴールとは異なる手法をとっています。

例えば教育現場では、特別支援教育は隔離教育と批判されるようになってきました。この視点で考えると、このように「障害者を別枠で”保護”するような雇用」は、隔離雇用ともいえるかもしれません。

障害者問題におけるツイントラックアプローチ

ツイントラックアプローチとは、自転車のように2つのタイヤを同時に回していく考え方を意味します。

@DFID 2000
2つのタイヤ、つまり大きくわけて2つの方針のアプローチを行うということです。障害者の雇用問題における文脈で考えると

  1. 障害者の特性に合わせた雇用の促進
  2. 雇用における障害者インクルーシブの促進

の、2つのアプローチにわけられます。法整備についても、この双方の考え方を導入する必要があると考えられます。

(参考:CBM

”働く権利”と”働かない権利”

さて、ここまで働けない理由と促進する方法について考えてきました。一方で、働けない場合にはどうなる?という問題が浮上してきます。障害の種類や程度、心身の状態によっては、最大限に工夫を凝らした場合にも働けないということもあります。状況によっては働かないという選択をする人もいるでしょう(障害の有無を問わず)。

ここで気を付けなければいけないのは、働くことを重要視するあまりに「働けないこと」を軽視する風潮に加担してはいないか?ということです。

労働力や生産性そのものは、人間の権利や尊厳とは無関係であることをインクルージョンを進めるあまりに見失わないようにしなければいけません。

考えてみよう!

ここで、障害者雇用にまつわる様々な取り組みについて、今まで解説した視点をもとに多面的に考えてみましょう。

ケース①:ダウン症店員が接客するカフェ

ここのカフェでは、ダウン症をもつ若者たちが店員として接客を行っています。目的は、

  • 障害者の雇用機会を作ること
  • 就業経験を積むこと
  • 地域社会への啓蒙

の3点です。ダウン症並びに学習障害があると、現状雇用の機会は非常に限られてしまいます。そこで彼ら専用の就業場所を確保をし、今後地域社会で実際に就労するためのスキルを身に着けるということは有用だと考えられます。一方で、この運営はあくまでチャリティーベースで行われており、昔から批判されているチャリティーによる”隔離”と同様のスキームとも言えます。

包括(Inclusive)と疎外(Exclusive)のちょうど中間におり、状況や運営方法によってはどちらかに転換する微妙なラインに位置するサービスと考えます。

ケース②:認知症の店員が接客するレストラン

今度も飲食店ですが、認知症の店員が接客をしてくれる店です。店名にもあるように、「注文を間違える」ことを特徴として挙げています。店員さんたちは認知症による機能障害によって短期記憶が制限されています。それにより注文を忘れたり、間違えたりすることがありますが、このレストランではその”失敗”を”新しい価値”として創造しているといえます。あくまで資本主義の運営方法の中で、障害による違いをポジティブな価値として提供している非常にチャレンジングな取り組みですね。

一方で、認知症と一言でいっても、症状はひとにより様々。状況によっては動画にあるような接客は難しい場合も考えられます。つまり、同一の機能障害を有する市民の中で、労働に値するものと値しない者という2つのグループを創造してしまう可能性もあると指摘出来ます。

ロボットを操作し行う遠隔業務

OriHime-D | PRODUCT | OryLab(オリィ研究所)テクノロジーの力で「不可能を可能に変えていく」
OriHime-D(オリヒメディー)は、テレワークをしている人が遠隔で接客やものを運ぶなど、身体労働を伴う業務を可能にする、全長約120cmの分身ロボットです。

こちらは冒頭で紹介した遠隔操作にて業務を行うことの出来るロボット技術です。重度な身体障害があっても、視覚の動きを用いてロボットを操作することで、重度障害者の社会参加を促す目的でつくられています。

これぞまさに労働フェーズ③、テクノロジーの醍醐味ですね!今後5Gが普及していくことにより、このような働き方が非/障害者双方にメリットをもたらし、柔軟な働き方が可能になっていくと考えられます。

このようなハイテクノロジーを用いたアプローチは障害の種類という壁を超える一方で、デジタルリテラシーという新たな障壁を作ってしまうとも指摘されています。たとえば高齢者など、デジタル機器の操作が出来ない場合に生じると考えられます。

 

まとめ

今回は、障害と雇用にまつわる理論と分析についてまとめてきました。いくつかの例を見てきて分かるように、一つのアプローチのみで全ての障害者の完全雇用を促進できるということはありません。ツイントラックアプローチも考慮しつつ、「どこの課題にアプローチしているのか?」「考えられる副作用は?」を忘れずに、雇用に関わる選択肢を増やしていきたいですね。