【障害者が雇用者に?】ダイレクトペイメントって一体なんだろう

インクルーシブ

こんにちは、かなこ(@MinmachiBuho)です。

ここ英国で障害学を学んでいて、障害者にまつわる社会政策の目玉として挙げられるのがやはりこのダイレクトペイメントです。

イギリスの福祉政策自体は予算も削られる一方で、なかなか他国に誇れるようなものではないのが悲しいかな現状です。しかし、このダイレクトペイメントは障害者の生活の在り方を大きく好転させるものになっているといえます。

なかむら
かなこ

今回はこのダイレクトペイメントの概要やメリット、現在の問題点などをざっくり解説していくよ

ダイレクトペイメントとは①:どんな仕組みなの?

ダイレクトペイメントとは簡単に言うと、ソーシャルケアを受けるための費用を事業所を通じてではなく直接本人へ支払うというものです。直接支払うので、ダイレクトペイメントなんですね。

例えば日本では、障害者が介護や訪問でのケアなどのサービスを受ける際には、介護保険や医療保険等を利用して、費用の一部を自己負担し、あとは行政から事業所へ代理で支払う(もしくは建て替えののち還付)という形になっています。現金ではなくサービスそのものが提供されている形です。

https://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/08/s0826-2c2.html
↑リンク内の情報は現在のものと異なっている箇所があります

一方でこのダイレクトペイメントは、審査を受け支給額を決定した後は、その金額をマネジメントしながら、障害者自身が雇用者という立場で自らに必要なサービスを決定し、コントロールしていくという位置づけです。サービスが提供されるのではなく、本人が本人の望む生活のために主体的にサービスを選び取っていく、これが大きな違いです。

利用対象者は?

こちらの制度は1980年代から徐々に始まり、徐々に改編されてきました。現在のイギリスの制度でダイレクトペイメント対象者となっているのは

  1. 16歳以上の障害者(短期/長期のニーズがある者)
  2. 機能障害により子育てに困難さがある障害者
  3. 障害児を育てる保護者
  4. 地域ケアを必要とする高齢者

です。日本の制度と大きく違うのは

  • 障害者自身ではなく親が対象になる(子どもの場合)
  • 障害者の子育てが保障の対象になる
  • 障害の種類による分類ではなく、生活上のニーズで対象となるかどうかが決まる

という点ですね。

利用可能なサービスは?

ダイレクトペイメントを用いて利用できるサービスは大きくわけて3種類あります。

  1. Personal services:身の回りのケアにまつわるサービス(入浴介助、トイレ介助、食事の介助など)
  2. Domestic services:家事に関係するサービス(掃除、洗濯、買い物など)
  3. Social services:社会活動に関するサービス(友人宅への訪問の支援、映画館に行く際の送り迎えや付き添い、パブに出かける時の支援など)

パブに出かけるときもサービスを使っていいの?!

 

なかむら
かなこ

このような柔軟なサービス展開が出来ているのはそもそも、障害者にとって自立した生活とは何か?を障害活動家たちが訴え続けた結果なんだよ

ダイレクトペイメントとは②:なぜ出来たの?

ダイレクトペイメントとは、1960年代にアメリカから起こり、その後イギリスに伝わった自立生活(independent living:IL)から始まっています。

当時アメリカでは、重度障害をもつ大学生たちが利用できるサービスに制限が大きいことに意義を唱え、ユーザーがデザインするサービスの必要性を訴えたことから自立生活が注目を浴び始めました。

そこでの考えがイギリスにうつり、自らのコミュニティを離れることなく、障害者自身がサービスを選ぶべきだという政治的活動へ発展していきました。自立という言葉の定義は様々ですが、ここでは

生活上のタスクを支援なく行えることではなく、自ら意思決定が行えること、自らの生活の統率者となれること

を指しています。

専門家が専門的知識を武器に「あなたにはこのサービスが必要です」と決めるべきであり、サービス受給者(障害者)は従順かつ受動的な役割であるべきだ、という従来の考え方にNOを突き付けたのです。

そのような背景から、現在でも障害者がダイレクトペイメントと活用する際にはCentre of Independent Livingという障害者がメインとなって運営される組織により、支援が提供されています。

ダイレクトペイメントとは③:どんなメリットがあるの?

まず最大のメリットは上記で示しているような自立生活上における柔軟性です。

実際に↑に記載している利用可能なサービスを提供するのはパーソナルアシスタント(PA)と呼ばれる職種です。PAは日本の介護士とは異なり明確な業務の規定がなく、資格も必要ありません(必要な場合には事前にトレーニングを受けることが出来ます)。

PAは一名だけでなく必要に応じて複数名、かつ条件をつけて募集することができるので、放課後の発達障害児の遊び相手から朝のジムへの送迎、夜間の身体介助まで柔軟なニーズに対応することが可能です。

そのため、

  • 本当はこれをやってほしいけど我慢しよう…
  • 友達の家に遊びに行きたいけど周りに迷惑をかけるから…
  • 在宅勤務中の身体介護が必要なのに…

といったニーズとサービスのミスマッチを防ぐことが出来ます。

 

加えて、自身の生活を自分自身でマネジメントすることが出来るので、障害者はサービス受給者、受け身であるべき。専門家の言うことを聞くべき。といった古い固定観念から解放され、雇用者と被雇用者として対等な関係を築くことが可能です。これは障害者にとっては大きなエンパワーメントとなるといわれています。

ダイレクトペイメントとは④:問題点は?

一方で、ダイレクトペイメント制度には問題点もあります。課題として指摘されているのは主に

  • 予算の削減により適切なサービスが受けられない
  • 自治体により審査基準が異なる
  • 自身でマネジメントをするのが大きな負担となる

という点です。

イギリスでは近年福祉予算の削減が図られており、予算のやりくりは自治体によってばらつきがあります。さらに全国統一の審査基準ではなく自治体の判断に依存するため、住んでいる自治体(主にその地域で障害者の自立生活がどの程度盛んに行われているか)に大きく影響を受けます。この辺は日本でも同様の課題が見られますね。

マネジメントの負担については、特に精神疾患や認知症、知的障害や学習障害を有する方への負担が大きいとされています。人集めから面談、スケジュール調整、PAへの支払いや領収書の保管、提出など高いスキルを要する事務手続きを行わなければいけないからです。もちろんそれらが可能な障害者にとっては大きなエンパワーメントとなる機会でもありますが、一方で障害者の中での格差を生じてしまうという危惧もあります。

そこで現在では、弁護士や家族、親しい友人など、適切な人材と考えられる人物による管理代行が可能となっています。しかしながら、本人の意思をしっかりと尊重して、かつ適切な業務を行える人材を見つけるのは中々に難しいことですし、そもそも口頭でのコミュニケーションが難しい障害者の意思を代理の人間が把握するというのは不可能に近いようなことです。この点についての代替案は未だに整備されていません。

 

まとめ

今回は日本ではあまり情報がないダイレクトペイメント制度についてまとめてみました。この制度はイギリスだけでなく、いくつかのヨーロッパ諸国でも運用されています。

もちろん国ごとに考え方や予算規模、人口動態などによって出来ることが大きく異なります。絶対にこの政策が良い!というものは存在しないでしょう。しかし、この障害者主体で動いてきたダイレクトペイメントの経緯や意義を考えることが、非常に重要なのではないかと考えます。