【インターセクショナリティ②】障害男性について、ジェンダー×障害学から考える

インクルーシブ

こんにちは、かなこ(@MinmachiBuho)です。

 

「男らしさ」という言葉から、どんなイメージを思い描くでしょうか?

体力的な力強さ、頼りになる、金銭的余裕…など、肉体的・社会的強さがイメージされるのではないでしょうか。最近ではフェミニズムの発展により、この「男らしさ=Masculinity」にも疑問が呈されるようになってきました。男性学、という言葉も聞き馴染みが出てきましたね。

男らしさの呪縛が男の心を破壊する理由 | PRESIDENT WOMAN Online(プレジデント ウーマン オンライン)
自分のパートナーや男性の家族に対して、“男らしくあってほしい”と願ったり、身近な男性に対し、“男らしい”あるいは“男らしくない”と思ったことがありませんか? そして、男性とのコミュニケーションを取る…

これらで取り上げられている男らしさは「Toxic Masculinity(有害な男らしさ)」とも言われ、問題視されています。

男性障害者は、男性であるが故の問題を抱えていると、近年知られるようになってきました。これは何故なのでしょうか?今回は、この「男らしさ」と障害の関連性について解説していきます。

以前、障害とジェンダーという一見異なる2つの問題を解説するべく、このような記事を書きました。

【インターセクショナリティ①】障害女性について、ジェンダー×障害学から考える
こんにちは、かなこ(@MinmachiBuho)です。 今日は、障害とジェンダーという2つの一見異なる問題について、解説していきたいと思います。言うまでもないことですが、人類のおよそ半数は女性です。そのため、障害者の中でももちろん女性...

今回は、障害×男性が抱える課題について、インターセクショナリティという観点から考えていきます。

インターセクショナリティとは:

差別について考える時「人種や宗教、国籍、性的指向、性自認、階級、障害など、ひとりひとりの持つ属性や、それによる差別の構造は多層的で”交差”している」という考え方 一般社団法人fair(フェア)

なかむら
かなこ

この考え方をもとに、障害×男性の課題を見ていこう!

障害者にも存在する男性優位性

まず前提として述べておかなければならないのは、障害者の間でも社会全体の構造と同じく、男性優位性があるということです。多くの障害者団体の代表や、政治的交渉力をもつポジションは男性の割合が高いと指摘されています。つまり、障害者のための福祉政策等を考える際にイメージされているのは、障害男性になりがちであるということです。これにより、女性障害者や高齢者・子どもの声はメインストリームから外れてきました。

一方で、この社会において優位である男性性=Hegemonic Masculinityが、障害男性自身にとっても問題となって降りかかっているといわれています。

男らしさの喪失

ケガや疾患によって機能障害が生じた中途障害男性の場合に顕著と言われているのが、男らしさの喪失です。前述したように、男らしさとは力強さや頼りがい、経済的余裕など、社会的な自律・自立と関連付けられています。つまり、依存的であることは男らしくないと批判の対象となり得ます。

たとえば配偶者である女性が働き、自身は家事をメインで担当する主夫となるという選択をする男性に対し「ヒモ」と呼ぶような文化にも見られるように、男性は自立し、稼ぎ、家族を養うものである という強固な価値観が見られます。

このような価値観、Hegemonic Masuclinityは、男女間のみに存在するだけではなく、男性間で互いを評価しあい、価値を査定しあうことで形成されるヒエラルキーにも大きく影響しています。どちらがより稼いでいるか?より肉体的に強靭か?そのような試し合いが男性間にも強くみられるのです。このような課題が男性の生きづらさと関連すると指摘されています。

 

障害男性について考えてみましょう。身体障害がある場合、いわゆる肉体的な強さを失う場合があります。条件がそろわなければ就業も出来ない恐れがあり、さらに非障害男性に比べて収入も減少する可能性があります (参考)。つまり、自分は肉体的にも弱く、自立も出来ず誰かに頼らねばならず、お金も稼ぐことが出来ない、というようにアイデンティティが大きく喪失してしまうのです。

アイデンティティの再定義とレジリエンス

上記のようにアイデンティティが崩れてしまった場合に、障害男性がとるとされる行動の代表的なものが①男らしさの再定義、や②新たな自分らしさの再定義、です。

 

①男らしさの再定義

車いすバスケットボールのイラスト(パラリンピック) | かわいい ...

身体的な男らしさへのリカバリーをはかるため、リハビリや障害者スポーツに打ち込むことで、新たな障害者としての自分の男らしい体を手に入れるように取り組む人がいます。今までと異なる体の取り扱いをマスターすることで、自身のMasculinityを回復させようというのがその目的です。

一方で、機能障害となる前に専門的なスポーツに取り組んでいた障害男性は障害者スポーツに取り組むことに抵抗感を示す場合もあると報告されています。これは障害者スポーツは非障害者スポーツと比べて劣位であるという考えから来るものであることが多いようと言われています。

②新たな自分らしさの再定義

男らしさのヒエラルキーから逃れ、身体的・経済的な強さではなく自身の強みを生かしたアイデンティティを再形成する方もいます。例えば最近、突発性大腿骨頭壊死症を発症した俳優の坂口憲二さんのように、新たな趣味をいかした生き方に方向転換したのが印象的です。

芸能活動を休止中の坂口憲二さん、コーヒー焙煎士になっていた。新たなチャレンジにかけた思いを聞いた
セカンドキャリアの道を歩む坂口憲二さんが、単独インタビューにこたえてくれました。

このような前向きな捉え方は称賛されやすい一方で、社会的バリアにより生じている不利益は無視されています(坂口さんの場合には、なぜ立っている状態を長く維持することが出来ないために俳優をやめていますが、座った状態で演技をすることが一般的に認められない、というバリアが改善されずに無視されています)。

見えづらい「つらさ」

障害女性の研究に比べて、障害男性の直面する課題は体系的に検証されておらず、「つらさを乗り越えるのは個人の問題、自分自身で乗り越えるべき」という個人レベルでの議論しかなされていませんでした。

しかし実際にはそのつらさは男性優位社会から生じるHegemonic Masculinityによって引き起こされるものであり、個人の性格などの問題ではなく、社会構造的なものともいえます。さらなる障害男性に対する検証が必要といえるでしょう。

障害児の男性親に見られる苦悩

障害者本人だけでなく、障害児を育てる男性親においても、男らしさから引き起こされる苦悩があるといわれています。報告によると、男性親は女性親と比較して、主な稼ぎ手となり障害児を育てることへのプレッシャーを感じており、また子どもに対する社会からのスティグマに一層敏感な傾向があるといわれておます。

しかしながら、障害児を育てる親への調査はほとんどが女性親に焦点を当てたものであり、男性親はまだほとんど注目されていません。2001~2010年に行われた自閉症児の家族を対象とした400件以上の研究の中で、男性親に焦点をあてたものはその中のわずか1.5%であったと報告されています。

まとめ

障害男性もしくは障害者の男性家族が直面する課題や困難さについては、ほとんど検証がなされていません。この”男らしさ”の毒をどう社会から取り除いていくのか、それは障害男性はもちろん障害女性や非障害者の生活にとっても重要なことだと考えます。

 

 

参考文献

Shuttleworth Russell, Wedgwood Nikki and Wilson, Nathan J. (2012) The Dilemma of Disabled Masculinity

Alareeki, Asalah; Lashewicz, Bonnie; Shipton, Leah. (2019). “Get Your Child in Order:” Illustrations of Courtesy Stigma from Fathers Raising Both Autistic and Non-autistic Children.