【障害と人権②】障害者が子育て?家族をもつ権利とは

インクルーシブ

こんにちは、かなこ(@MinmachiBuho)です。

 

前回、国連にて2006年に採択された障害者権利条約(CRPD)について概要を解説しました。

【障害と人権①】国連の定める障害者権利条約とは?わかりやすくまとめてみた
こんにちは、かなこ(@MinmachiBuho)です。 我々人間には一人ひとり、人権というもがあります。その人権が侵害されないよう、国連がイニシアティブをとり人権を守るための条約をつくってきました。 女子差別撤廃条約(女性差別を...

この記事の中で紹介しなかった重要な条文の一つが、23条 家庭及び家族の尊重というものです。その条文を少しだけ抜粋して以下に紹介します。

  • 婚姻をすることができる年齢の全ての障害者が、両当事者の自由かつ完全な合意に基づいて婚姻をし、かつ、家族を形成する権利を認められること。
  • 障害者が子の数及び出産の間隔を自由にかつ責任をもって決定する権利を認められ、また、障害者が生殖及び家族計画について年齢に適した情報及び教育を享受する権利を認められること。さらに、障害者がこれらの権利を行使することを可能とするために必要な手段を提供されること。
  • 障害者(児童を含む。)が、他の者との平等を基礎として生殖能力を保持すること。

 

なんだかよくわからないけど、結局どういうことなの…?

なかむら
かなこ

つまり、どのような障害があっても結婚や出産をし家族をもつことは個人の権利として保障すべき、それを妨げるような法律は改正すべき、ということを定めている条文だよ

このように聞くと、当たり前のことのように思われるかもしれませんが、実は多くの国で障害者が子どもを持つことを妨げたり、不妊手術を実際に行ったりしていた経緯があります。さらに、障害者の子育てという分野は未だにあまり研究や検証が進んでおらず、制度やサポートの整備が不十分であるとも言われています。

著者自身も、障害児支援に携わっていた経験から、障害と家族というとつい「障害児と親」の関係を連想していました。今回は、障害親の子育てについて、現状と課題を解説していきます。

優生思想と不妊手術

障害者の不妊手術というと、ナチス・ドイツの優生政策を思い出す方も多いかもしれません。優生思想について詳しく知りたい!という方はこちらの記事をご参照ください。

【悪い?当たり前?】優生思想についてわかりやすく解説します
こんにちは、かなこ(@MinmachiBuho)です。 優生思想、という言葉を聞いたことがあるでしょうか?辞書で調べると 身体的・精神的に秀でた能力を有する者の遺伝子を保護し、逆にこれらの能力に劣っている者の遺伝子を排除して...

このように障害者は不良な子孫を増やすため、出産を行うべきではないという考え方は世界で多くの国に存在しています。残念ながら日本にも旧優生保護法という同様の主旨の法律がなんと1996年まで存在していました。

こちらの法律は女性・母体の保護目的ならびに不良な子孫の増加を防ぐために、障害者に対して中絶や不妊手術を強制するものです。形式上は本人の同意の上に行うと示されていたようですが、実際のところは本人の許可なく(ひどい場合には知らされもせず)不妊手術が行われていたそうです。このような人権侵害が当たり前とされていた時代がありました。それがなんと25年前ほど前法律で認められていたのです。

旧優生保護法訴訟「不妊手術、50年間打ち明けられず」兵庫の男性訴え 神戸地裁(ラジトピ ラジオ関西トピックス) - Yahoo!ニュース
 旧優生保護法(1948~1996年)のもとで不妊手術を強制されたとして、兵庫県内の男女5人が国に計5500万円の損害賠償を求めた訴訟の第7回口頭弁論が30日、神戸地裁であった。  国の統計では全

これらの被害を受けた障害者たちは、今でも多く訴訟という形で戦いを続けています。このように、障害者が家族を持つとう選択自体が、ようやく近年勝ち取られた権利であることがわかります。

「障害者が子育て」=無責任? 能力主義と子育て

障害親が子育てを行っている事例をいくつかご紹介します。

子供2人、ヘルパー10人。身長100センチの障害者ママが語る「チームで子育てする方法」
すべては、ふれあうところからはじまる。

2番目の伊是名さんの記事、当時Yahoo!ニュースにも取り上げられており、リプ欄が相当に地獄の様相であったことが印象的でした(本リンクはHuffpostなので安心して見てください)。

コメントは簡単にまとめると、自分のことも出来ない障害者が子どもを育てるな!ということなのですが、これは理論上正批判なのでしょうか?障害学の中では、このような意見は能力主義(Ableism)によっておこると考えられています。能力主義とは、特定の能力の有無・程度を基に人間の価値を定めようとする思想のことで、現代の資本主義社会においては労働のための能力が特に重要視されています。

【障害者差別の根源】エイブリズム(Aibleism)について考えよう
こんにちは、かなこ(@MinmachiBuho)です。 前回、優生思想について取り上げました。 今回は、優生思想と少し似ていますが、また違ったひとつの考え方をご紹介していきます。 こちら、【エイブリズム(A...

上記に類似する批判の中に、「貧乏なくせに子どもを産むな」といったものがあることからも、労働力の有無及び程度をもとに親としての資質を評価されていることがわかります。さらに”自分のことが出来ない”という点からは、心身の障害によって日常生活動作の自立が出来なかったり、子育てにまつわる頭脳労働(子どもに生じる危険察知や諸々の手続き等)が達成できないことを批判されていると考えられます。

しかし、本サイトでも何回も説明していますが、障害というのはそもそも機能障害(impairment)及び障害(disability)にわかれるとされており、障害(disability)が生じるのは社会における物理的・制度的・心理的不整備からくるものです。つまり、障害者だから子育てが出来ない、のではなく、障害者が子育てを円滑に行えるような環境を提供していない社会側に課題がある、といえます。

イギリスのダイレクトペイメント制度と障害親支援

以前にイギリスではダイレクトペイメント制度というものがあると紹介しました。

【障害者が雇用者に?】ダイレクトペイメントって一体なんだろう
こんにちは、かなこ(@MinmachiBuho)です。 ここ英国で障害学を学んでいて、障害者にまつわる社会政策の目玉として挙げられるのがやはりこのダイレクトペイメントです。 イギリスの福祉政策自体は予算も削られる一方で、...

この制度では、障害者個人がニーズに合わせてパーソナルアシスタントを直接雇用することが出来るというものです。機能障害をもつ個人は子をもつに際してこの制度を利用し、子育てそのものに対して支援を受けることが可能となります。本サービスのサイトでは、このサービス利用は障害親の権利であり、親としての役割を全うできているかどうかを他者から評価されるものではないと強調しています(参考サイト)。

日本のヘルパー制度では、障害者本人のみに対する介護しか行うことが出来ないため、この違いは障害親が子育てをするにあたって非常に大きくなります。適宜サービスを利用することにより、機能障害があっても子育てを行うことは可能になります。障害者権利条約が示しているのは、このような体制を整えよ、ということだといえます。

ダウン症と不妊の関係について

知的障害を有する個人の場合だとまた問題はさらに複雑になります。例えばダウン症をもつ男性と不妊には関係があるのではないかと言われていますが、その検証はほとんどされていないのが現状です。このような状況がダウン症男性の不妊問題をさらに複雑化させています。

例えば、ダウン症の症状の一つとして不妊が疑われているのですが、それを治療する方法は研究されていないという点です。不妊症の治療方法は様々なものや選択肢があり、世界中で多くの人が研究・受診していますね。一方でダウン症男性の場合は、そもそも周囲の人間(保護者や家族等)が、彼らが結婚し子どもを持つ者として認識していないことが多いのです。そのため、研究のニーズとしても上がってこないという問題があります。(参考サイト

パートナーシップ・性的同意と障害

パートナーシップや性的関係をもつことも重要な権利として認められています。しかしながらイギリスなど、国によっては知的障害がある個人の性的同意を法的に認めないという場合があります(参考サイト)。これは知的障害者を性暴力から守るためという目的があるのですが、一方で知的障害者は性的関係を伴うパートナーシップを築くことが困難になっているともいえます。

他方日本では、知的障害者を保護する法律は存在せず、13歳以上の女児はみな性的同意が可能であると見なされています。この法律の有無が直接関連しているとは言い切れませんが、実際に知的障害女性が性暴力被害を受けたというニュースは後を絶ちません。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190805/k10012019751000.html

まとめ

最後に、最近ネットフリックスで見つけた興味深いプログラムをご紹介します。

登場人物はすべて実在の自閉症者です。幼少期は言葉が出なかったり、その個性は様々ですがみな一様にパートナーシップを築くことを目標にデーティングに取り組んでいます。

不可解な恋愛に臨むにあたって、人間関係を専門とするセラピスト(異性との会話の続け方や一般的なコミュニケーションマナーを含めた関係の築き方を指導してくれる)のアドバイスを受けながら、日々奮闘する姿が非常に胸を熱くし、新たな視点を与えてくれます。

障害者と家族、というテーマを考えるにあたって、パートナーシップを築くということは欠かせない課題です。是非機会があればご覧ください。